ジブリ作品のフランス語翻訳―『千と千尋の神隠し』を例に

                          Pauline Benignus ジブリ映画は、日本のみならず世界中で大成功を収めている。この成功は、幅広い観客にアピールする作品の美しさとそのテーマによるものであるが、同時に、他言語への翻訳を担当した翻訳者たちの仕事によるものでもある。今回は、作品を新たな観客に親しみやすくする舞台裏の職人たちの仕事にスポットを当て、特にジブリ作品の映画化についてお話ししたいと思う。 映画化の制約 ジブリ作品を映画化する際には、多くの制約を考慮する必要がある。 まず第一に、ターゲットとする観客を明確にしなければならない。ジブリ映画は子供を含む家族全員を対象としている。第一の条件は、子供がストーリーを理解できるように簡単な言葉を使うこと。 もうひとつは、日本の文化的要素を取り入れることだ。ジブリ映画の多くの側面は、日本の観客にとっては自然に語りかけているが、フランスの観客にはそうではない。そのため、日本文化の引用をフランス文化の引用に置き換えるか、日本文化の引用をより明確にしなければならない。また、地名や登場人物の問題もある。あたかもフランスが舞台であるかのように変えるべきか、それともそのままにしておくべきか決める必要がある。 同様に重要な制約は、人々が映画を見たいと思うようなタイトルを見つけることである。映画は売るために作られた商品であり、タイトルの選択を誤ると、外国での興行収入に悲惨な影響を及ぼしかねない。そのため、観客に映画を観てもらうために原題を変更しなければならないこともある。 また、吹き替えのテキストと登場人物の唇の動きを同期させるなど、翻訳には技術的な制約もある。 『千と千尋の神隠し』の翻訳  『千と千尋の神隠し』は2001年に公開された。フィリップ・ヴィデコックはこの作品のフランス向け脚色を担当した。彼は他にも多くの作品を手がけており、特にディズニー作品では『メリー・ポピンズ リターンズ』などを手掛けている。 フランス語のタイトルは「Le voyage de Chihiro」(千尋の旅)。 『千と千尋の神隠し』はフランスで大成功を収めた。この成功は映画のテーマだけでは説明できない。もし翻訳が悪ければ、大衆は誤解し、映画はこれほど成功しなかっただろう。 結論 ジブリ最新作はフランス語圏の観客にはあまり理解されなかった。最後の映画は「君たちはどう生きるか」。『Le garçon et le héron』(少年とサギ)というフランス語のタイトルが邦題に忠実でないことを家族に説明したところ、「タイトルの訳し方がまずかったということだね」と返されたので、翻訳者が別の訳し方をすることはありえないのだと思った。他のジブリ作品は、まるで子供向けの物語のように、旅や冒険への誘いのようにフランス語に訳されていた。ジブリは海外ではブランド名となっており、一定の品質を保証し、一定のタイプの映画を製作するスタジオ名であり、売れる名前となっている。最新作のタイトルは、『千と千尋の神隠し』ではなく『千尋の旅』というように、これまでの作品のタイトルと同じ精神でなければならなかった。ジブリ映画のような有名な文化的産物になると、前作の翻訳を無視することはできない。たとえ忠実でなくても、同じ精神を保ち、翻訳ではなく創造をしなければならない。 Sources : Mangacast n°90 – Le Garçon et le Héron, MIYAZAKI et le Studio Ghibli – Mangacast L’émission du manga et de l’animation japonaise Le Voyage de Chihiro (analyse) – Sen to Chihiro … Lire la suite ジブリ作品のフランス語翻訳―『千と千尋の神隠し』を例に

日本の観光業界でのAI翻訳の活用

                                                                                     Ameyalli MUNOZ RAMIREZ ムニョス・アメジャリ AI翻訳とは? AI翻訳(機械翻訳)とは、高度な機械学習アルゴリズムやAI(人工知能)を使用して、テキストや音声をある言語から別の言語に自動的に訳す翻訳機能のことだ。言語の壁を取り払い、異なる言語を話す個人間のコミュニケーションを促進する上で、重要なツールである。(‘AI翻訳(機械翻訳)とは?仕組みやメリット、デメリットを解説 | Clovernet 多言語対訳支援サービス | NECネクサソリューションズ’, n.d.) 日本の観光業界では AI翻訳は大きく進化し、従来の基本的かつ不正確な翻訳と違い、高度な翻訳が可能になっている。Google翻訳やDeepLのようなAI翻訳ツールは、今や人間の会話のパターンに近い正確な翻訳を行うことができる。 従来、日本の観光業界で使用されていたAI翻訳ツールは簡単な会話にしか対応しておらず、日本語の複雑さを理解するのに苦労し、直訳的で文脈を欠いた翻訳になることが多かった。現在で社スマートグラスや携帯型翻訳デバイスなど、AIを搭載したデバイスの進歩により、観光客のための外出先での翻訳が実現できるようになった。これらのデバイスは、音声認識やアルゴリズムを活用し、観光客と地元の人々の間の即時コミュニケーションを促進し、言語の障壁を取り除き、有意義な交流を促進することができる。 例として、西武鉄道の翻訳デバイスを挙げよう。今日、新宿駅の窓口には、12カ国語に翻訳することができるAIを搭載したデバイスが設置されている。このデバイスは窓口の窓と一体化しており、翻訳された文章が窓に直接映し出されるようになっている。このデバイスは、話し手の表情を見ながら、正確な翻訳文を出力し。観光客と新宿駅の駅員の会話をサポートすることができる。(‘Translation Tech AI Advances Help Japan’s Tourism Industry | NHK WORLD-JAPAN News’, n.d.) このデバイスは情報通信研究機構(NICT)によって開発された。NICTのプロジェクトリーダーは、2025年の大阪万博に向けて同時通訳システムの開発に取り組んでいると述べた。このシステムのプロトタイプは、すでに2秒以内に通訳を開始することができ、90%以上の翻訳が正しかったという。 AIの進化と利用例 日本の観光産業は毎年何百万人もの観光客を魅了し、観光客に豊かな文化体験と美しい景観を提供している。しかし、日本語の複雑さは、外国人旅行者にとってしばしば課題となる。AI翻訳は、これらの障壁を克服する上で重要な役割を果たしており、観光客が快適に日本を旅行し、地元の人々とスムーズに交流することを可能にしている。 観光客はさまざまな目的でAI翻訳を利用している: – メニュー翻訳: 日本の多くのレストランではメニューが日本語のみで提供されており、日本語を母国語としない外国人にとっては難しい場合があります。AI翻訳アプリを使えば、観光客はスマートフォンのカメラでメニューをスキャンするだけで、料理や食材の名前や説明を瞬時に希望の言語に翻訳することができる。 – ナビゲーション支援: 観光客は、日本の都市を効率的にナビゲートするために、グーグルマップのようなAIを搭載したナビゲーションアプリに頼ることが多い。日本には40万人のタクシー運転手がいるが、英語が堪能な運転手は1%にも満たないという(Turzynski-Azimi 2021)。アプリは多言語で道順、通りの名前、交通機関の選択肢を提供できるため、観光客は日本の複雑な交通網を簡単に探索できる。 AI翻訳は、快適な旅行体験を保証し、有意義な文化交流を促進することができる。 AIの限界 AI翻訳は、その進歩にもかかわらず、文化的なニュアンスや文脈に依存する文章を理解することがいまだに困難である。さらに、学習データの偏りやアルゴリズムの限界が、不正確さや誤解につながることもある。 日本の観光業界では、翻訳がうまくいかず、誤解を招いたり、意図しない結果を招いたりするケースが後を絶たない。こうした誤訳はソーシャルメディアで共有されるほど一般的になり、「Engrish」と呼ばれる概念が生まれた。(‘Why Does “Engrish” Happen in Japan?’ 2014) ここでは、観光客が遭遇する可能性のある不正確なAI翻訳の例をいくつか挙げる: – 看板の不正確な翻訳: 交通機関の標識や観光案内板など、日本の公共施設に設置されている標識は、AI技術を使って翻訳された場合、誤訳や文法的な間違い、文脈の欠落が見られることがある。例えば、京都二条城の枯滝の写真を見てみよう。日本語で「本日二の丸庭園の滝が、工事に伴い水を流しておりません。」というが、英語では、「Today is … Lire la suite 日本の観光業界でのAI翻訳の活用

Trados Studio vs. Smartcat, Who Wins?

Hello, everyone! Today, I want to present you with an overview of two CAT tools. One that you have already heard about is Trados Studio, and the other, a little less known, is Smartcat. Note: The Computer-Assisted Translation tool, or simply CAT tool, helps automate the translator’s work by memorizing translation options for phrases, words, … Lire la suite Trados Studio vs. Smartcat, Who Wins?

ゲーム業界のローカリゼーション 

逆転裁判のゲームを例として                                                             Mallaury BOZA 翻訳とはメッセージ・コンテンツ・文書をある言語から他言語へ書き写すことである。翻訳業界の中には、様々な活動がある。本章では、その一つであるローカリゼーションを定義するともに、ローカリゼーションの例を紹介する。 ローカリゼーションとは ? 大きな修正を行わずに、メッセージ・コンテンツ・文書をある言語から他言語へ書き写し、自然な文章に翻訳するのに比べ、ローカリゼーションは対象(文書、ソフトウェア、品物、ビデオ)をターゲット市場の消費者や地域により作り変える。目的は対象の消費者にコンテンツを分かりやすくし、より身近なものだと感じもらうことである。 フランスの会社の「アルトラデュクション」によると、ローカリゼーションは次のような様々な要素を伴う: ローカリゼーションは翻訳される言語が話されている地域と対象地域の文化、用語、生活などの膨大な知識が必要だ。現在、ローカリゼーションの市場の大部分はゲーム業界が占めている。ゲーム業界はコロナ禍からより台頭をおこし、2021年には、ゲーム業界は世界で1550億ドル以上の規模になり、2022年には20億人近いゲーマーが存在するになった。 この事業を説き明かすために、日本で人気な弁護士のゲームを例にし、フランスのバージョンでのと日本のバージョンでのアダプテーションを比べよう。 『逆転裁判 』の紹介 『逆転裁判 』(Ace Attorney)とは株式会社「CAPCOM」が開発し、2001年に発売されたゲームである。このゲームの脚本は2001から2012年までシュウ・タクミが担当し、2013からは山崎 貴が担当した。アシスタントは、岩垂徳行(メインコンポーザー)と岩本達郎(シリーズのアートディレクター)が務めた。このゲームには主人公は2人いる。まず、成歩堂龍一 (なるほどりゅういち・フランス語名は英語のバージョンに基づいて「Phoenix Whright」と呼ばれる)。この若い弁護士は犯罪者と責められている依頼人を無罪にしなければならない。これらの裁判のシーンは、捜査のシーンの合間に出てくる。捜査中に証拠を集めたり、様々証人から証言を得たり、裁判の時に取材と証拠を使って、矛盾を指摘する。2人目の主人公は龍一成歩堂の生徒にあたる法介王泥喜 (ほうずきおどろき・フランス語名は英語のバージョンに基づいて 「Apollo Justice」と呼ばれる)だ 。彼らが出てくるシリーズは全シリーズの中で最も長いが、ゲームのローカリゼーションの例の例を挙げるために、2つのゲームを見てみよう。 逆転裁判から見たローカリゼーションの例 フランス語のバージョンで、ローカリゼーションを担当したひとはキャラクターの名前でいろいろな冗談や言葉遊びを使った。 Ema skyeの例 フランス語と英語のバージョンでは、Ema Skyeと呼ばれているが、日本語では宝月 茜(ほうずきあかね) と呼ばれている。フランス語版も英語版も、日本語版に忠実であるために、キャラクター名の空のイメージを守ろうとしているのがわかる。 Eva cozésouciの例 フランス語のバージョンではこのキャラクターの名字の意味は他人に「迷惑な人」という意味だ。日本語のバージョンではこのキャラクターの名前は大沢木ナツミである。大騒ぎ(おおさわぎ)という語呂合わせになっており、うるさくて騒々しい人のイメージを持てる。この場合には、日本語の名前の意味に近づけるのが難しいため、フランス語のバージョンでは言葉遊びをの要素を取り入れ、日本語の名前にすこし忠実になるようにしながら、キャラクターの態度に基づいてされた。 Virgile grimoireの例 フランス語のバージョンではこのキャラクターの名字の意味は「魔法の本」という意味。日本語バージョンでは、或真敷バランという名前だが、苗字の発音が「マジック」にかけられている。このキャラクターが魔法使いであるため、両方のバージョンで、魔法に関する名前が付けられた。 そのアダプテーションは名前だけではなく、文化にも関わっている。 画像は「つわはす」のユーチューブ動画よりキャプチャ 画像は「Antoine Daniel」のユーチューブ動画よりキャプチャ まず、ゲームの舞台となる地域を変更した。逆転裁判裁判5を例に見てみよう。第2章では、王泥喜くんと王泥喜のアシスタントのみぬきが、成歩堂くんの要請により九尾村に捜査しに行った。日本のバージョンではその村は日本にあるが、フランスのバージョンでは日本バージョンの村に相当するフランスの観光地が舞台となっている。 フランスのバージョンでは、日本語で書かれている看板が修正された。日本語とフランス語の台詞が違うものになっている。 画像は「駒やんGames」のユーチューブ動画よりキャプチャ 画像は「Antoine Daniel」のユーチューブ動画よりキャプチャ そして、フランスバージョンではこのゲームの舞台はフランスであるため、キャラクターの出身も変わっている。日本のバージョンでは、ナツミは大阪からきたカメラマンとされているが、フランスのバージョンではマルセイユ出身になっている。大阪人はマルセイユ人に似ていると言われるからだ。 翻訳者がフランスのバージョンで大阪弁を、マルセイユでよく使われている表現に変換した。 フランス文化に忠実なゲームにするために、キャラクターの食べ物の好みまで変えている。この無駄に見える作業はゲームのローカリゼーションの肝要な部分であり、消費者がよりゲームの世界に入り込めるようにしている。ローカリゼーションは非常に大事だが、残念ながらこの業界は十分に認知されていない。ローカリゼーションに携わっている人々のは創造性が認められ、: ゲームの質が向上するような環境が必要だ。 参考資料 https://altraductions.com/blog/quest-ce-que-la-localisation-en-traduction https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%86%E8%BB%A2%E8%A3%81%E5%88%A4#%E9%80%86%E8%BB%A2%E8%A3%81%E5%88%A45 https://aceattorney.fandom.com/wiki/Ema_Skye?wikia-footer-wiki-rec=true https://aceattorney.fandom.com/wiki/Trucy_Wright https://aceattorney.fandom.com/wiki/Valant_GramaryeLire la suite ゲーム業界のローカリゼーション 

借用語は言語を脅かすか それとも豊かにするか

Emeric Van overmeire 翻訳者になりたい人は、もちろん言語に興味があるだろう。そのため、この記事を読みながら、フランス語を勉強している人も、日本語を勉強している人も、ただただ私のように言語に興味がある人、一緒に少し借用語について考えていきたい。 すべての言語は生きもののように時間とともに進化している。その変化の原因はいろいろあるが、その中でも特に借用語が大きな役割を果たしている。現在、グローバル化により借用語の大切さが激増した。借用語は言語の純粋さを脅かすものだと考えている人がいる一方で、借用語は言語の豊かさや多様さなどにとって必要なものであると考えている人もいる。 グローバル化 昔に比べて、現在の世界では文化がよりつながっており、それはグローバル化と呼ばれている。日常で使っているものは世界中を駆け巡っているし、インターネットで地球の裏側の人と話すことができるし、世界中の報道を見ることができるし、より簡単に他の国に住むこともできる。そのつながっている世界では通信は大変大切なことである。そのような状況の中、自然に言語間でも交換が行われている。そして、現在では、母国語だけではなく一つや二つ外国語を話す人の数が増えている。 借用語とは ある言語から別の言語に同化した語彙を借用語と呼ぶ。その過程で語彙の意味、発音、書き方などが変化することもある。例えば、日本語の「コーヒー」は英語からの言葉(Coffee)で 「カフェ」はフランス語からの言葉(Café)。フランス語の「Café」は場所と飲み物の意味があるが、日本語では場所だけの意味が残っている。 日本語の借用語とフランス語の借用語 日本語では、借用語、または外来語がある。その中では、和製語、例えば、和製英語や和製漢語などがある。外来語と借用語は他の言語の語彙である。一方、和製語は、他の言語の言葉から、新しい日本語の語彙を作ることである。 また、借用語の中では、昔の借用語と現在の借用語がある。日本語では、古墳時代から中国語の書記体系の一部を使って、そして、平安時代からはひらがなとカタカナを使うようになった。つまり、日本の漢字と書記体系そのものなのだ。また、明治時代からドイツ語、ロシア語、フランス語、オランダ語などの借用語が日本語に見られるようになった。そして、現在の日本語にはアメリカから英語の借用語を多く入ってきている。 日本語に対して、フランス語の事情は違っている。大分昔からフランスという国はヨーロッパの他の国と人、ものや文化を交換していた。例えば、昔のフランス語だった語彙は英語になった、そして、新しい形でまたフランス語に同化した。また、フランス語では日本語の言葉もある。例えば、「karaoké」(カラオケ)をよく使っている。だが、カラオケ自体は日本語でも新しい言葉である。日本語の「空」と英語の「orchestra」の「オケ」で作っていた。 借用語に関する議論 新しい言語では、借用語になった言葉は変化することが多い。まず、ほとんどの場合言葉の発音がかわる。言語それぞれは違う音声システムがあるからだ。次に、同じ理由で書き方は変わることもある。例えば日本語の外来語はほとんどカタカナで漢字のほうが分かりやすいと思います。そして、意味も変化する。 一部の借用語は言語に元々あった語彙の代わりになるから、時々「危険」だと考えらえている。例えば、現在の日本語では「きっぷ」という言葉より、「チケット」が使われている。フランス語にも多くの例があり、「commerce」の代わりに「business」がよく使われている。なぜなら、「business」がモダンでお洒落なイメージがあるからだ。だが、多くの場合では借用語に相当するものがないから、二つの可能性があり、借用語を使うかそれとも新しい言葉を考えるかどちらかだ。その場合借用語は新しい言葉となるから言語を豊かにする。借用語の代わりに新しい言葉を作るのには時間がかかり認定される必要がある。フランスではそれは「Commission d’enrichissement de la langue française」(フランス語強化委員会)の役目である。専門分野でそれはもっとも重要なことである。なぜなら、専門分野では語彙を分からない場合や言葉を間違る場合と危険な結果なものになることがある。そのため、専門分野の語彙を統一しなければならない。 結論 借用語は新しい概念や流行から生まれ、他の文化の理解を促す。そして、借用語により少しでも他の文化が理解できるようになると思う。確かに専門分野のために語彙を選ぶ必要があるが日常の言葉において一般人はどの言葉を使う自由がある。言語の豊かさのために新しい言葉が必要である。そのような状況で、借用語も新しく作った言葉も同じように大切大切だと、と思う。そのため、借用語を認めると同時に借用語の使い方について考えることも必要だと思う。 翻訳者は言葉を訳すので、外国語に最も接する人々である。そのため、翻訳者は重要な役割を担っている。どの言葉を選ぶかによって、文の意味や雰囲気などは変わってくるが、残念ながら翻訳者にはそれを選ぶ時間があまりない。 Emmanuel Cartier. Emprunts en français contemporain : étude linguistique et statistique à partir de la plateforme Néoveille. L’emprunt en question(s) : conceptions, réceptions, traitements lexicographiques, 2019. ffhal-02537344 Fiedler Sabine, 2017. Phraseological … Lire la suite 借用語は言語を脅かすか それとも豊かにするか

AI 翻訳がさらに進化した場合、翻訳家はまだ必要だろうか?

みなさんは、もちろん、AI 翻訳について知っているでしょう。もしかしたら、よく使っているかもしれませんね。 最近、機械学習や深層学習によってAI翻訳が目覚ましい進歩を遂げていて、従来より人間らしい翻訳を生成できます。そのため、「AI 翻訳がもっと進化したら、翻訳家も必要がないだろう」というようなことを考えたことがありますか? おそらく、このような意見を持つ人が多いでしょうが、その考えは本当でしょうか?AI が翻訳家の代わりになれるのか確認しましょう! 現在までのAI 翻訳の推移 AI 翻訳の起源を知っていますか? AI 翻訳の歴史は1950年代に始まりました。1949年代、ロックフェラー財団のウォーレン・ウィーバー氏が、自動解読と自然言語処理を組み合わせ始めました。数年後、1954年代、ジョージタウン-IBMが、ロシア語から英語へ250言葉を翻訳できる機械を発表しました。 また、1970年代、カナダが「METEO」というシステムを開発しました。このシステムで、英語からフランス語へ天気予報を訳していました。毎日同じようなものだったから、問題がありませんでした。 それと、2000年代には、インターネットによって大変革が始まります。今まで、AI翻訳はメモリで行われていましたが、日本では、ニューラルネットワークをモデル化したコンピュータ・システムが開発されたおかげで、英語、日本語、中国後に対応した携帯電話向け音声合成翻訳が考案されました。 そして、2016年代、ニューラルネットワークのおかげで、グーグル翻訳が向上したため、「グーグル神経機械翻訳」と呼ばれたシステムが発表されました。 (Yuqo 2017) AI翻訳には4つのタイプがあります: (Strakertranslation 2023) AI 翻訳の限界 AI翻訳が目覚ましい進歩を遂げていることは言うまでもありませんが、まだとんでもない誤訳があります。 (AFTCom 2023) 例えば、このような面白い間違いがあります。 ちょっと、おかしいですよね。 一方、より深刻な誤訳の可能性もあります。 人の名前だから、大変そうですね。 (Dujardin 2023) 翻訳家の未来 このような欠点があるにもかかわらず、AI翻訳には、高速で無料であることなどの利点があります。そのため、翻訳家の代わりにAI翻訳を使用する企業の割合が増加するかもしれません。だが、状況によっては、AI翻訳だけで翻訳するのは危険すぎます。例えば、医療分野では、誤訳が患者の死につながる可能性があります。このような場合、翻訳者は後編集(post-edit)しなければなりません。つまり、AI翻訳は技術的な文章や長文を翻訳するのに非常に便利であるとしても、テキストが正しいことを保証するには、常に人間の介入が必要になるということです。 同様に、AIはユーモアや文化的なニュアンスを理解できないので、広告やマーケティングの分野ではほとんど使えません。これらの分野では、テキストをターゲット言語に翻訳するために、依然として翻訳者が必要とされます。 (Guay 2023) まとめ この記事を書く前、私は「AI 翻訳がもっと進化しても、翻訳家は常に必要である」という意見を持っていました。書き終わった後でもそれは変わりません。翻訳という職業が変化し、AI翻訳が翻訳者の生産性を向上させる貴重なツールになることは間違いありませんが、AI翻訳が人間の翻訳に完全に取って代わることはありません。なぜかというと、言語のあいまいさを翻訳し、文化的なニュアンスを理解し、テキストを読者に合わせるためには、常に人間が必要だと思うからです。                                                                        ロペス・シンディー    (Cindy LOPES)                  ²                                                                                                                                 参考資料 AFTCom. 2023. « Quelles sont les limites de la traduction automatique ? » … Lire la suite AI 翻訳がさらに進化した場合、翻訳家はまだ必要だろうか?

医療分野における翻訳の重要性

医療の理解は、母国語に関係なく、すべての個人に質の高い医療サービスを保証するために不可欠です。医療分野では、情報の正確さと明確さが重要であり、その点で翻訳の重要性が発揮されます。 なぜ医療分野で翻訳が重要なのでしょうか? 医療分野における翻訳は、患者と医療提供者の間でのコミュニケーションを円滑にするために不可欠です。患者が症状や治療に関する情報を正確に理解することは、適切な治療を受けるために極めて重要です。しかし、患者が異なる言語を話す場合、情報の伝達は困難になります。そのため、専門的な医療翻訳が必要です。また、患者の言語や文化的な背景に配慮したコミュニケーションは、信頼を築き、患者のケア体験を改善します。 患者が自身の言語で医療情報を理解できることは、彼らの治療結果に直接影響を与える可能性があります。誤った理解や情報の欠落は重大な医療エラーを引き起こす可能性があり、それによって患者の健康や生活が危険にさらされることもあります。 医療翻訳は、医学的な専門用語や文脈に精通したプロ翻訳者によって行われる必要があります。医療文書や診断結果など、専門的で複雑な情報を正確に伝えるためには、高度な言語スキルと医学的知識が必要です。 医療翻訳特有の課題 医療翻訳には、特定の課題や困難が存在します。まず、医療文書は非常に複雑です。医学を専門とする翻訳者は、この分野で一般的な略語や頭字語を正確に翻訳するという大きな課題に直面します。翻訳者は、文脈を考慮しながら、それらの本当の意味を判断することに特に注意しなければなりません。同じ略語や頭字語でも、いくつかの異なる意味を持つことがあります!例えば、フランス語の 「IVG」という略語は、「自発的妊娠中断」 (Interruption Volontaire de Grossesse)を意味することもあれば、「左室不全」 (Insuffisance Ventriculaire Gauche)を意味することもあります。このような翻訳ミスは、医師の理解を完全に歪め、誤った診断や治療につながり、患者の健康に有害な結果をもたらす可能性があります。 医療翻訳における特定の課題の1つは、異なる言語間での専門用語や概念の違いです。たとえば、日本語から英語への翻訳では、文化的な違いや医療制度の違いによる課題が生じる可能性があります。これにより、正確な翻訳を行うためには、それぞれの言語と文化に精通した翻訳者が必要とされます。 言語、文化、そして医療の悲劇: ウィリー・ラミレスの場合 (Price-Wise 2008) 18歳の若いキューバ人が翻訳ミスで四肢麻痺になりました。フロリダの病院に入院した彼は、脳内出血を起こした後、過剰摂取の治療を受けました。両親はスペイン語で息子の症状を説明した。両親は食中毒だと思いました。バイリンガルのスタッフは 「intoxicado」を 「食中毒」ではなく 「酒に酔っている」 (英語で「intoxicated」) と訳しました。この音声の不一致の結果、この患者は翻訳の人為的ミスによる医療ミスの犠牲者となりました。 医療翻訳の品質向上のためのアプローチ 医療翻訳の品質を向上させるためには、いくつかの重要なアプローチがあります。これらのアプローチは、専門知識、技術、およびコミュニケーションの面で包括的な取り組みを必要とします。 医療翻訳の品質向上の一つの鍵は、翻訳者の専門知識の強化であります。医療分野では、豊富な医学用語や専門用語が存在し、それらを正確に理解し、適切に翻訳する能力が求められます。翻訳者は、継続的な専門知識の獲得と更新を行うことが重要であります。翻訳者は常にその分野で新しい知識を身につけ、医療や技術の革新に目を光らせていなければなりません。この分野は(医療であれ製薬であれ)常に変化しており、日々新しい治療技術が開発され、常に新製品が市場に投入されています… 技術の進歩は、医療翻訳の品質向上に大きな影響を与えています。翻訳メモリシステムや専門用語辞書、翻訳支援ツールなどの技術を活用することで、翻訳の一貫性や効率性を向上させることができます。また、機械翻訳の進化も、翻訳者の作業を支援する面で重要な役割を果たしています。 医療翻訳の将来の展望 医療翻訳は、世界中でますます重要性を増しており、将来の展望も非常に興味深いものとなっています。この分野における技術の進化とグローバル化の進展に伴い、医療翻訳の将来にはさまざまな展望があります。 将来、医療翻訳においては、機械翻訳や人工知能(AI)の活用がますます進展すると考えられています。これにより、医療情報の迅速な翻訳や多言語間のコミュニケーションが向上することが期待されます。しかし、専門的な医療用語や文脈においては、人間の専門家の存在が依然として重要であり、機械翻訳とのバランスが求められるでしょう。 また、世界の医療研究や臨床試験、治療法などの情報がますます国際的に共有される中で、医療翻訳の需要が増加することが予想されます。特に途上国や地域における医療情報のアクセス改善に向けて、医療翻訳が重要な役割を果たすことが期待されます。 PILOT Léane Master 1 TSM (2023/2024) 文献資料 : ELODIE, 2021. Traduction médicale : l’importance de faire appel à un traducteur spécialisé – Traduc … Lire la suite 医療分野における翻訳の重要性

翻訳者に欠かせないツール

                                                                          Manon GIRARD 現代、紙の辞書を使う翻訳者はますますめずらしくなってきています。翻訳を支援する方法はたくさんあります。企業やクライアントは、翻訳者により効率的で迅速な仕事を期待しています。そのためには、翻訳者は最高のツールを使って仕事をしなければなりません。翻訳者は、紙のリソースを使用する代わりに、コンピュータからインターネットで利用可能なリソースを使用して、翻訳パフォーマンスを向上させます。 翻訳者になりたいけど、どんなツールが必要かわかりませんか?修士課程外国語学部多言語翻訳科の学生として、翻訳者に欠かせないツールを紹介します。 オンライン辞書とリファレンスツール インターネットでは、翻訳者の調査に役立つ多くのリソースを見つけることができます。 辞書、用語データベース、百科事典は翻訳者にとって重要なツールです。辞書は正しい言葉を探すのに役立ち、用語データベースは専門用語を提供し、百科事典はさまざまなテーマに関する情報を提供しています。これらを正しく使用することで、翻訳者は対象読者に合わせた正確な訳文を作成することができます。  翻訳者には好みがあり、使用する言語や専門分野に応じてリソースを選択します。個人的には、英語と日本語の文章を翻訳する翻訳者として、WordReference、Linguee、Jisho、Kotobankの辞書を活用しています。または、よく利用しています。しています。フランス語の用語データベースとしては、IATEとTermium Plusが有名です。百科事典に関しては、WikipediaやBritannica、など数多くあります。そのリソースはすべて無料です。 クライアントによっては、事前に使用する用語集や、翻訳者の作業を助けるその他のリソースを提供してくれることもあります。 文章校正ツール 文章校正ツールは、翻訳者にとって非常に便利なツールです。スペルミスや文法ミスを修正し、文章のスタイルと明瞭さを向上させるのに役立ちます。そのツールを使用することで、翻訳者はより良い、よりプロフェッショナルな翻訳を作成することができます。  フランス語と時には英語をターゲット言語とする翻訳者として、私が使用しているソフトウェアはAntidoteとGrammarlyです。今はAntidote 11 は119ユーロですが年間59ユーロのサブスクリプションもあります。Grammarlyは無料です。 CATツール  コンピュータ支援翻訳(CAT)ツールは、世界中の翻訳者の仕事のやり方を変えました。CATツールのコンピュータプログラムは、翻訳者の仕事をより良く、より速くするために作られています。便利な機能がたくさんあります。大きな利点のひとつは、以前に翻訳した内容を記憶できることです。つまり、すでに翻訳したことがある場合、ツールがそれを思い出させてくれるので、時間を節約することができます。また、そのツールは、使用する適切な単語を提案することによって、翻訳の一貫性を保つのに役立ちます。Word文書やExcelスプレッドシートなど、さまざまな種類のファイルを扱うことができます。CATツールは、多くの翻訳者が同じプロジェクトで一緒に作業することもできます。さまざまなファイル形式に対応しているので、翻訳者はたくさん種類の文書を扱うことができます。また、翻訳者がオンラインで共同作業できるように新機能も追加されて、常に進化しています。全体として、CATツールは翻訳の世界では非常に重要であり、翻訳者の仕事を迅速かつ適切にサポートします。 グルノーブルアルプ大学では、修士課程外国語学部多言語翻訳科の学生はSDL Trados 2021の使い方を学んでいます。しかし、MemoQやOmegaTなど、他のCATツールもあります。 今はSDL Trados 2021は755ユーロですが年間324ユーロのサブスクリプションもあります。 機械翻訳 機械翻訳とは、人工知能を使って文章を言語から別の言語に自動的に翻訳することです。例えば、DeepL、Google翻訳、Microsoft翻訳などがあります。そのソフトウェアのほとんどは、一般的に50から130の言語を翻訳することができて、ディープラーニングのような方法を使用しています。ディープラーニングとは、人工ニューラルネットワークに基づく機械学習の一種で、情報を抽出し、徐々に高いレベルのデータを取得します。 機械翻訳はオンラインで無料です。 機械翻訳の使用は、翻訳の世界では賛否両論あることを知っていることが重要です。それを使いたくない翻訳者がいたり、便利だと思う翻訳者もいます。まだ多くの欠点があっても、私は可能性を秘めたツールだと思います。以下で機械翻訳の利点と欠点について述べます。それを知った上で、機械翻訳を使うかどうかは翻訳者の判断に任されています。 批判もありますが、機械翻訳にはいくつかの利点があります。まず、長い文書を迅速に翻訳できるので、時間と労力を節約できます。さらに、多言語での同時翻訳が可能なので、多様な読者に効率的に対応できます。さらに、機械翻訳は安価、あるいは無料であることが多く、世界中のユーザーが簡単に利用できます。さらに、機械翻訳は継続的に進化するので、改善されて、言語使用の変化や技術の進歩に適応しています。 しかし、利点にもかかわらず、機械翻訳にはまだいくつかの欠点があります。まず、精度のレベルが大きく異なり、一貫性がないので、潜在的な誤解を招く可能性があります。さらに、機械が文脈を理解するのに苦労し、誤訳やぎこちない言い回しになってしまうこともあります。特に、言語的に大きい違いがある言語間の翻訳では、文法の間違いも起こります。さらに、機械翻訳の品質は、プロの翻訳者による翻訳には及ばないかもしれません。最後に、慣用表現や文化的な言及など、人間の言語のニュアンスは、機械が正確に翻訳するのが難しい場合があります。 まとめ これで翻訳者の主なツールについてすべてわかりましたね!オンライン辞書とリファレンスツールと文章校正ツールとCATツールと機械翻訳はすべての翻訳者が使い方を知っているべきツールです。もちろん、使用言語と作業方法と個人的な好みに応じて、自分が選択することができます。 出典 (記事)AI翻訳(機械翻訳)とは?仕組みやメリット、デメリットを解説 | Clovernet 多言語対訳支援サービス | NECネクサソリューションズ, [sans date]. [en ligne]. [Consulté le 2 mars 2024]. Disponible à l’adresse : https://www.nec-nexs.com/service/lp/clovernet_mtss/artificial-intelligence-translation.html (記事)CATツールとは?メリット・デメリットなど解説, [sans date]. 株式会社ヒューマンサイエンス [en ligne]. [Consulté le 2 mars 2024]. Disponible à … Lire la suite 翻訳者に欠かせないツール

会議通訳の世界

小宮山紗良 (Komiyama Sara) 会議通訳とは? 会議通訳とは、主に国際会議や学会等で活躍する通訳のことである。通常、会議場に設置されたブースの中で働き、マイクを通して通訳をする。会議の出席者は専用のイヤホンを通じて通訳を聞きながら議論に参加する。会議通訳は、首脳級会談や多国籍企業の会議で働くこともあり、訳し間違えが国際問題に発展する可能性もあるため、常に重い責任を背負って働いている。会議通訳は国際会議を支える要であるが、表舞台に出ることがあまりないため、その存在や役割は広く認知されていない。本稿では、会議通訳に必要なスキル、母国語の大切さ、会議通訳の醍醐味について論じる。 必要なスキル まず、会議通訳に必要な能力は、高度な言語応用能力である。一般的に、会議通訳は三か国語を駆使することが求められ、多くの者は、A言語・B言語・C言語の組み合わせで仕事を受けることが多い。A言語とは、通訳の母国語であり、聴解・口頭ともに完璧である必要がある。B言語とは、第一外国語であり、聴解はネイティブレベル、口頭はそれに近いレベルであることが求められる。C言語とは、第二外国語であり、聴解・口頭ともにネイティブレベルに近くなければならないが、通訳は他の言語からC言語に通訳することはない[1]。また、会議通訳の中には、A・B言語のみで活躍する者もいるが、この場合は両言語とも母国語レベルでなければならない。会議通訳は、このような明確なルールを守ったうえで、通訳における使用言語を選ぶ。 次に、社会・経済や時事問題など、最新の国際情勢に関する知識である。国際会議では、頻繁に時事に関する話題が取り上げられる。一方、昨今の商業活動のグローバル化の流れもあり、企業間での商談においても、地政学や政治情勢に関する問題が取り上げられる事が多い。一見、通訳にはあまり関係なさそうにも見えるが、時事に関する知識の有無で通訳の質に雲泥の差が出る。例えば、従来ウクライナの首都は、ロシア語の呼称である「キエフ」と呼ばれていた。しかし、2022年にロシアがウクライナに軍事侵攻した際、外務省によりウクライナ語の呼称である「キーウ」に変更された[2]。もし、国際会議で通訳をする際、このような呼称変更が行われたことを知らない場合、聴衆やメディアに混乱をもたらす可能性がある。このような場合には、政治的な問題が絡むからだ。政治・経済は常に変動がある分野であるため、誤訳によるリスクを減らすためには、日ごろからニュースや新聞に目を通す必要がある。 そして、会議通訳は主に二種類の通訳技術を身に着けている。一つ目は、逐次通訳の技術である。逐次通訳とは、話者の話を区切りながら通訳する技術である。逐次通訳をこなすためには、話の内容の重要なポイントを一定時間記憶しておく必要がある。そのため、話の要点を瞬時に捉えることや、短期記憶の能力を鍛えることが求められる。二つ目は、同時通訳の技術である。同時通訳とは、話者の話と並行して通訳する技術である。同時通訳をこなすには、高い集中力や分析力、話の流れや先を理解・予測する能力が必須である。近年、同時通訳は国際会議のみならず、民間企業間の会議においても使用されており、今後も需要は伸び続けると予想されている。 したがって、会議通訳には、①高度な言語運用能力、②時事に関する豊富な知識、③逐次・同時通訳の能力が必要である。 母国語の大切さ 前章では、会議通訳には高度な言語運用能力が必要だと述べたが、母国語のレベルの向上は見落とされがちである。本章では、なぜ会議通訳にとって母国語が重要であるのかを検討する。 会議通訳は、特に同時通訳を行う際、B・C言語からA言語に訳すことが多い。この傾向は特にヨーロッパで顕著に見られ、欧州委員会においても、「会議通訳にとって一番重要なスキルは母国語である」と規定されている[3]。実際、通訳はただ言語の交換を行っているのではなく、話者の経歴や会議のシチュエーションを考慮したうえで通訳している。例えば、ある国の要人が国際会議に出席する場面と、民間企業の社内会議の場面とでは、使用する単語や表現が全く異なる。通訳で一番重要なのは、聞き手が容易に内容を理解できるように表現することである。たとえ訳した言葉が文法的に合っていたとしても、聞き手の議題に対する知識のレベルや、その場の状況に合った表現でないと正しく伝わらない。聞き手に正確に情報を伝えるためには、豊富な語彙力や表現力が必要である。「その場にあった言葉」を選ぶためにも、母国語を鍛えることは必須であると言える。 また、母国語の能力を磨くことは、外国語のレベルの向上にも繋がっている。人は何か新しいものに遭遇したとき、基本的には母国語を意識的・無意識的に介して理解する。幼少時より、母国語を介して物事を認識してきたからだ。反対に、外国語で何か新しいものを学んだ際は、母国語を通すことでさらに理解を深めることができる。そのため、母国語の基盤を強固なものにすることで、おのずと外国語での理解や表現力も上がっていくのである。 母国語と外国語の関係については、日本において著名な会議通訳である、米原万里氏の著書の中でも触れられている。米原氏は日本で出生し、幼少期を在チェコスロバキア ソビエト大使館付属学校で過ごした後、東京外国語大学外国語学部ロシア語学科を経て、ロシア語通訳の第一線を走る会議通訳となった。彼女は自身の著書、「不実な美女か貞淑な醜女か」において、幼少期の体験を振り返りつつ、以下のように述べている。 日本語が下手な人は、外国語を身につけられるけれども、その日本語の下手さ加減よりもさらに下手にしか身につかない。〔中略〕通訳にとってもう一つの商売道具である、外国語の力もまた母語の能力に左右されるということだ[4]。 母国語は、思考に密接に結びついている。母国語の基盤が脆弱である場合、思考力も影響を受け、外国語のレベルはさらに低くなってしまうのである。したがって、聞き手やその場のシチュエーションに合った通訳をするため、そして、外国語の運用能力を上げるためにも、母国語のレベルを常に向上させることが肝要である。会議通訳にとって、外国語の運用能力だけでなく、豊かな母国語の表現力もまた、重要な商売道具だと言えるだろう。 会議通訳の醍醐味 会議通訳は、参加者の多い国際会議や、大企業の株主総会などで仕事をする機会が多々あるため、常にストレスにさらされている。しかし、会議通訳にはほかの職業にはない魅力がある。 まず、自身の外国語運用能力を遺憾なく発揮できる点である。語学学習を好む人は多いが、全員が実際に語学力を活かした仕事をしているわけではない。専門の言語を使用して仕事ができるだけでなく、仕事を通して新たな単語や表現を学ぶことができる点も魅力的だと言えるだろう。例えば、ビジネス通訳では、金融用語や会計用語を学べるし、芸術分野での通訳では、映画や舞台芸術に関する表現を学ぶことができる。新しく学んだ単語や表現は、次の仕事に活かせるだけでなく、新たな趣味を見つけたり、より深く芸術作品を楽しむのに役立てることができる。 次に、様々な業界の最新情報に触れることができる点だ。一般的に、商談や国際会議などでは、最新の商品や技術について議論が行われる。それまで知らなかった概念や、未知の分野に遭遇することは、知的好奇心の強い人にとっては興味深いことだろう。また、仕事を通して、歴史的な事件や出来事を目の当たりにすることもある。例えば、前章で紹介した米原氏は、ソ連崩壊とともに市場経済化を目指すロシアから、日本に技術やノウハウを学びに来る技術者たちの通訳に従事した。また、「意味の理論」と呼ばれる通訳理論を提唱した会議通訳、ダニッツァ・セレスコヴィッチ氏は、欧州石炭鉄鋼共同体が設立された際、ジャン・モネ委員長の通訳を務めた[5]。これらのように、仕事を通じて世界に影響を与える出来事に遭遇することができるというメリットがある。 そして、人と人を繋げることができるのも大きな魅力である。どんなに大きな契約や協定も、通訳なしでは成立させることはできない。また、国際社会に影響を及ぼすルール作りには、必ず言葉の違う人同士のやり取りが必要である。例えば、欧州委員会では、各加盟国の公用語を母国語とする会議通訳が通訳をしている。欧州委員会で行われる会議の内容は、必ず全加盟国の公用語に訳される必要があるためである[6]。つまり、会議通訳なくして、欧州連合の法律は制定されないのである。話す言葉の違う人同士の架け橋になり、何か新しいものを作ることに貢献できる点も、会議通訳という仕事のやりがいの一つと言える。 まとめ 会議通訳には、高度な言語運用能力だけでなく、幅広い知識や教養、通訳の専門技術が必要とされる。また、外国語のレベルだけでなく、母国語の語彙力や表現力を磨くことも忘れてはならない。このように、求められる要件は多いが、仕事を通じて新たな単語や表現を学んだり、歴史的な場面で働く機会を得たり、人と人を繋ぐことができる点は非常に魅力的である。語学力を仕事に活かしたい者や、知的好奇心旺盛な者にとって、会議通訳は興味深い職業だと言えるだろう。 出典 ESIT (École supérieure d’interprètes et de traducteurs). Master : Interprétation de conférence. Université Sorbonne Nouvelle – Paris 3 – Master : Interprétation de conférence (univ-paris3.fr) 外務省. 「ウクライナの首都等の呼称の変更」https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press1_000813.html UE. Interpréter … Lire la suite 会議通訳の世界